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国際医療福祉大学大学院教授・医学博士 前田眞治
◆免疫について
免疫は自分の持っている細胞や物質を、自分自身のものか、違うものかを見分ける機能のことをいいます。免疫は体内に侵入した細菌やウイルスなどを異物(自分以外のもの)として攻撃したり、本来は自分の細胞でありながら変化してがん細胞になってしまったような細胞を排除することで、自分の身体を健常に保つ重要な働きです。
免疫は、免疫グロブリンという抗体によって細菌やウイルスなどを攻撃する液性免疫と、ウイルスやがん細胞によって生じた異常な細胞を見分けてリンパ球などの細胞が攻撃する細胞性免疫があります。免疫グロブリンなどは目的とするウイルスなどに攻撃を仕掛け、多くは感染などのきっかけで生じてきます。一方、異常な細胞を見分けるリンパ球などの監視能力を高めておくことで自分の身体を守る機能を高めることができるのが細胞性免疫で、炭酸泉入浴による免疫力増強は細胞性免疫の増強によるものが主なものと思われます。
◆炭酸泉入浴による免疫力増強のメカニズム
人間の身体は活動を維持するために酵素を使ってエネルギーやたんぱく質などを作り出しています。この酵素は一定の体温の中で最も効率よく働くことができます。人間の体温は36~37℃でこの体温の中であれば活発な活動ができます。そのため人間は少しでも体温が上がったり下がったりするだけでも活動ができなくなります。風邪などで38℃くらいで少し体温が上がるだけでもだるくなり、寒くて35℃くらいに少し体温が下がるだけでガタガタと震えが止まらなくなります。人間の身体はこの36~37℃を常に保つようになっています。この範囲から少しでも外れると、人間は異常な状態だということを認識します。
熱い湯に長湯をすると体温が上がり過ぎてしまいのぼせなどが生じたり、異常な状態になり、人間の身体は対応しきれなくなります。しかし、入浴などで体温を1.0~1.5℃程度で適度に上昇させると体にはさほど負担を掛けずに温度の刺激を感じることができます。過度な体温上昇そのものは前述したように良くない刺激ですが、適度な温度上昇でも、次に熱刺激が来たときのために防御できる体制づくりをします。人間は体温上昇という温度の刺激を受けた時にも、温度上昇に対応することだけでなく様々な刺激に対応するようになります。その反応の一つが免疫力を増強するという反応です。つまり人間が身体的なストレスを受けてそのストレスが大き過ぎず自分の身体への負担がある程度であれば、その防御機能として免疫力を高めたり、細胞の修復力を高めたり、様々なバリアを作って次の攻撃に備えます。
入浴による1.0~1.5℃程度の体温上昇の目安は、体温計で測りながら入浴するわけにもいきませんので、私の研究結果では額にうっすらと汗をかく程度のものです。玉の汗はやや体温が上がり過ぎているかもしれません。41℃くらいの入浴では連続入浴で15分程度のものです。
41℃15分の入浴で水道水入浴は約1.0℃程度、炭酸泉入浴では1.5℃程度の上昇(食塩泉・重曹泉に匹敵するレベル)がみられ、炭酸泉入浴では体温上昇が大きいのが特徴で、この0.5℃の差が免疫力増強に重要な働きを示します。(図1)
◆NK細胞活性からみた免疫力
細胞性免疫の指標としてNK細胞活性というものでみることがあります。NK細胞は主に血液中に存在し、リンパ球に含まれる免疫細胞の一つで、生まれつき(ナチュラル)外敵を殺傷する(キラー)能力を備えているため「ナチュラルキラー(NK)細胞」と呼ばれています。NK細胞は自分自身の体内を幅広く行動し、がん細胞やウイルス感染細胞などの異常細胞を発見すると攻撃を仕掛ける細胞です。この活性が高まれば免疫力が増強していることがわかります。
実験では図2のように41℃15分浴で、水道水入浴でも1.3倍程度に増加しますが、炭酸泉入浴では2.2倍程度にまで上昇します。この上昇は2日目にピークに達し4日程度で低下してきます。毎日入浴すると体が刺激に感じることに慣れの現象が生じるかもしれませんが、3~4日に一度しっかり温まることで、体温の上昇を刺激と感じ免疫力の増加が得られると考えられます。
また、炭酸ガスを溶解させて温水シャワーで浴びるヘッドスパは美容業界で普及しています。溶けた炭酸ガスは核となる物質があると気泡化し、アカやゴミが核となり気泡となった炭酸ガスがこれらを取り込みながら洗い流すことが考えられます。さらに炭酸温水は弱酸性を示し肌や毛髪にやさしく、頭皮環境の改善、毛髪の艶やかさなどの効果が期待され、温浴施設でも採用されている店舗が増えつつあります。
~~文献~~
1、前田眞治:温泉の最新健康学 悠飛社2010.
2、前田眞治:人工炭酸泉の基礎と医学的効果・美容効果.人工炭酸泉研究会雑誌.7(1):5-20.2018
前田眞治(まえだ まさはる)
国際医療福祉大学大学院リハビリテーション学分野教授。医学博士。
専門はリハビリテーション医学全般、温熱医学。
大学院でリハビリテーションなどの研究・教鞭をとる傍ら、温泉や炭酸も研究分野にされており、多くの研究成果をあげられている。特に炭酸研究において、国内第一人者として著名。 通称、炭酸博士。
サウナが大ブームとなっている中、新型コロナウイルス感染症の流行によりブームに水を差されている状況になっています。温浴施設では構造的に一定の空間に人が密集しやすく、温浴・サウナ施設ではコロナの感染リスクはどうなの?と不安に思って利用を控えている利用者も多いのではないでしょうか?温浴・サウナは健康につながるエビデンスも多く報告されており、愛好者も非常に多いですのでコロナ禍での温浴・サウナ控えは勿体ない!
適切な対策を行えばコロナ禍でも大好きな温浴・サウナに入れますので、その考え方、要点を説明したいと思います。
まず大前提として、新型コロナウイルス感染はどんなに対策しても感染リスクはゼロにはなりません。重要なのは社会全体で見たときに医療が対応できる枠を超えて感染症が広まらないようにすることです。そのためには、新型コロナウイルス感染症対策が社会前提にきちんと浸透する必要があります。現実的なゴールは『以前のような経済活動を行っても新型コロナウイルス感染症感染者数が医療の限界を超えない』と言うことです。その為には、温浴施設はもちろんのこと、利用者も一体となり新型コロナウイルス感染症対策を行うことが必要です。
温浴施設での新型コロナウイルス感染症対策を進めるために、私が代表を務める日本サウナ学会では『サウナ・温浴施設のために新型コロナウイルス感染防止ガイドライン』を医師、弁護士、医療関係者、とともに策定し公開しました。さらに感染症対策を徹底するために施設の職員向けに新型コロナウイルス感染症についての基礎的な知識、具体的な感染症対策を伝えるためのオンラインセミナーを行いました。合計100名を超える温浴施設関係者に受講して頂くことができました。さらに各施設のコロナ対策を紹介する動画を作成して頂きYouTubeで公開しました。これは、コロナ対策をキチッと行うことはコストであると同時に利用者に安心を与える『長所・アピールポイント』であり他施設との差別化を図れるチャンスでもあります。ピンチをチャンスに変えるためには、キチッと対策をしている施設を広くP Rすることが必要です。そこでYouTube動画を公開し日本サウナ学会HPに施設一覧を作成し、i-phoneアプリ『湯の国』、週刊モーニング(講談社)の巻頭カラー記事に掲載してもらうなど積極的にメディアへのPRを行っています。
しかしここまでしても、実際に新型コロナウイルス感染症対策を行うと、施設利用者から苦情が入ることがあります。つまり、利用者にコロナウイルス感染症対策の意識が浸透しきっていないということです。そこで『マンガ サ道』(講談社モーニング掲載)の作者であるタナカカツキさんにイラストを依頼し、利用者に向けて新型コロナウイルス感染症対策を啓蒙するポスターを作成し温浴施設向けに日本サウナ学会の会員・非会員問わず無料配布しています。啓蒙ポスターは字ばかりの事が多く、掲載してもほとんど見てもらえないので、多くの人に見てもらえるように、タナカカツキさんの絵の力をお借りして、なるべく字を減らすことに留意しました。少しでも社会、いやサ会、のお役に立てれば嬉しいです。
このように日本サウナ学会は、コロナウイルス対策だけでなく、サウナの健康効果や安全で適切なサウナ浴法の啓蒙などを行い、またサウナに関連する医学研究を行い発信していくために2019年に設立されました。現在、医療は凄まじい速度で進歩している反面、医療費の高額化というジレンマを抱え、皆保険制度を持つ我が国では財政支出の増加により加速度をつけて崩壊に向かっています。したがって、今後は病気の早期発見・予防の方向に医療が進展していくことは明白です。その時に、温浴・サウナ業界が人々を健康にする『医療』の一翼を担う存在であって欲しいと願っています。
今後、日本サウナ学会では研究・啓蒙活動を通じて温浴・サウナ業界をさらに活性化し、人々を健康にしていくことを使命として活動していきます。
当学会の志に賛同しご支援くださる方(賛助会員)も募集しております。詳しくは日本サウナホームページをご覧下さい。会員募集のみならず、サウナに関する様々な情報も公開しておりますので併せてご覧下さい。
日本サウナ学会: https://www.ja-sauna.jp
加藤 容崇(かとう やすたか)
慶応義塾大学医学部腫瘍センターゲノム医療ユニット特任助教・医師、北斗病院・医師、日本サウナ学会 代表理事。
専門は癌の遺伝子検査・研究。「敵は強い方が燃える」というモットーのもと癌の中で最凶の「膵臓癌」を相手に現在も戦い続けている。人間が健康で幸せに生きるために、健康習慣による「予防」が最高の手段だと言うことに気づき、サウナをはじめとする世界中の健康習慣を最新科学で解析することを第二の専門にしている。
サウナに関する研究を進め医学的効能を明らかにし、人々の健康増進に役立てることを目標に「日本サウナ学会」を設立し、科学技術を用いて本気で「サウナ」の健康効果を追求する団体の代表理事として活動中。プライベートにおいても、大のサウナ好き。